1.Dartのコンパイルと実行

DartがFlutterで採用されている最大の理由のひとつが、柔軟なコンパイル戦略にあります。Dartは以下の2つの方式をサポートします：

・JIT（Just-In-Time）：開発中の即時実行に対応。ホットリロードの要。

・AOT（Ahead-Of-Time）：ネイティブコードへ事前コンパイルし、本番アプリの起動・実行を高速化。

このデュアルコンパイル戦略により、開発時は柔軟かつスピーディ、本番環境ではハイパフォーマンスという理想的なワークフローが実現します。

ステートフルなホットリロード

DartのJITコンパイラを活用することで、Flutterは状態を保持したままUIを即座に更新できる「ステートフル・ホットリロード」を可能にしました。

これにより：

・デザインの微調整が即時確認できる

・再起動なしでロジックの試行錯誤が可能

・開発スピードが大幅に向上

開発体験を重視するFlutterにとって、DartのJITは欠かせない要素なのです。

2.ガチャガチャ（Jank）を避ける設計

Jank（表示のカクつき）は、ユーザー体験を大きく損なう問題です。FlutterとDartはこの問題を根本的に避けるため、UIスレッドの制御とメモリ管理に関して非常に戦略的な設計を行っています。

AOTコンパイルとブリッジの排除

多くのクロスプラットフォーム技術（例：React Native）は、JavaScriptブリッジを通してネイティブと通信するため、遅延やパフォーマンスの劣化が発生します。

Flutterはこれを排除し、Dartコードを直接ネイティブにAOTコンパイルします。これにより：

・ブリッジのオーバーヘッドなし

・起動が速い

・アニメーションがスムーズ

スケジューリングとリソース共有

Dartの実行モデルはプリエンプティブ（割り込み）ではなく、イベントループ駆動の協調型スケジューリングです。

この仕組みがあることで：

・フレーム処理が予測可能

・アニメーションやUI更新に一貫性がある

・タスクを非同期で最適に割り当て可能

割り当てとガーベジコレクション

DartのGC（ガーベジコレクション）は、Flutterのような短命オブジェクトが頻繁に生成されるアーキテクチャに最適化されています。具体的には：

・マーク＆スイープ方式による高速回収

・UIスレッドに影響しない最小GC停止時間

・メモリリークのリスクも最小化

統一的なレイアウトシステム

FlutterはAndroidやiOSのネイティブUIコンポーネントに依存せず、自前のウィジェットシステムでUIをゼロから描画します（Skiaエンジンを使用）。

その結果：

・デザインの再現性が全プラットフォームで一貫

・カスタムUIやアニメーションが柔軟

・デバイス間の差異に悩まされない

3.Dartは独占的な言語か？

結論から言うと、Dartはオープンソースの言語です。

・ライセンス：BSD

・GitHubでソースコード完全公開

・Googleだけでなく、コミュニィの貢献も活発

つまり、Dartを使うことに制限やロックインの心配はありません。

4.Dartプログラマーは探すのが難しい？

確かに登場当初はDartエンジニアは少数派でした。しかし、Flutterの爆発的な成長と共にDart開発者も増加し続けています。

・世界中にDart/Flutterコミュニティが存在

・JavaScript/TypeScript/Java経験者が習得しやすい

・学習リソースが豊富（公式チュートリアル、書籍、Udemy等）

5.Dart 2と「フォーカス」という戦略

Dartは汎用的な目的よりも、UI構築に特化した構文とランタイムにフォーカスしています。

Dart 2で導入された主な要素：

・Null Safety（安全な型システム）

・非同期サポートの強化（async/await）

・拡張機能（Extension Methods, Mixins）

これにより、Flutterの開発体験はより洗練され、スケーラブルかつモダンなアプリ構築が可能になっています。

FlutterがDartを採用しているのは、単にGoogle製という理由ではなく、開発効率・実行性能・UI一貫性・将来性といったあらゆる側面においてDartがベストマッチな言語だからです。JITとAOTの使い分け、ホットリロード、ネイティブブリッジ不要、軽量GC、統一レイアウトなど、Dartの設計はFlutterの理想的なユーザー体験を支えるために極めて理にかなっています。さらに、オープンソースでありエンジニア育成も進んでいることから、今後の拡張性・継続性にも優れています。Dartの選定は、Flutterを単なるUIフレームワークではなく、「アプリ開発の未来」を担う存在にまで押し上げる重要な戦略だったのです。