なぜWebARは「万能なAR」にならないのか ― ブラウザARの構造と限界

1. ARを成立させる技術構造
ARは大きく次の三層で成り立っています。
Web ARの特徴は、このうち環境理解層を自前でほとんど持たない点にあります。
2. Web ARが成立する最小構成
Web ARは以下が揃った時点で成立します。
- getUserMedia によるカメラ映像取得
- JavaScriptでのフレーム制御
- WebGLによる3D描画
空間を理解しているわけではなく、カメラ映像を背景として扱っているケースが大半です。
3. Web AR内部処理フロー
Web ARは「毎フレーム何をしているか」を理解すると、限界がはっきり見えます。
重要なのは③です。
多くのWeb ARでは、ここで以下のような簡易処理しか行われていません。
- マーカー検出結果からの座標補正
- デバイスの向きをそのまま反映
- 固定位置への描画
ARKitやARCoreのような継続的な空間トラッキングは行われていないため、カメラを大きく動かすと破綻しやすくなります。
4. なぜWeb ARはネイティブARと同じことができないのか

理由は実装能力の差ではなく、実行環境の差です。
- SLAM処理をブラウザで常時実行できない
- センサーの生データ取得に制限がある
- JavaScriptはリアルタイム処理向きではない
Web ARは「空間を理解するAR」ではなく、空間を前提にしないAR表現として設計する必要があります。
5. WebXRの現実的な対応状況と限界

WebXRは「WebでXRを扱うための標準API」ですが、万能ではありません。
対応状況の現実
- PCブラウザでは比較的安定
- モバイルでは対応・非対応が混在
- iOSでは制約が多い
技術的な限界
WebXRは「ネイティブARの代替」ではなく、対応環境でのみ成立する補助的レイヤと考えるのが現実的です。
6. Web ARで現実的に扱える表現領域
その結果、Web ARで安定するのは次の範囲です。
- マーカーAR
- 顔・手など限定的トラッキング
- 短時間のインタラクション
空間そのものを扱うAR体験は、Webでは依然として難易度が高いままです。
7. Web ARを選ぶべきケース、避けるべきケース
Web ARは用途が合えば有効です。
選ぶべき
- URL配布が必須
- 一時的な体験
- ARをUI要素として使う場合
避けるべき
- 高精度な空間固定
- 長時間利用
- デバイス性能を最大限使う用途
Web ARとは、ARをブラウザという制約の中で成立させるために、空間理解を大きく削ぎ落とした技術です。WebXRが登場しても、その構造的制約は大きく変わっていません。
Web ARを正しく使うためには、内部処理フローと対応範囲を理解した上で、最初から「できないこと」を前提に設計する必要があります。Web ARは妥協の技術ではなく、制約を理解した技術者だけが扱える実装領域です。
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